天の哲学の書

 
天の哲学、あるいは苛立ちの書

フィリップス テオフラストゥス パラケルスス著

錬金術の学と性質、および形成すべき意見について

7つの一般に知られる金属における7つの規則あるいは本質的基準により定められる
また序文と幾つかの論書、付録も含む


本書の読者と錬金術師ら全てへのテオフラストゥス パラケルススの序文

 錬金術に熟達している読者の中には他の多くの者らと同様に、錬金術の様々な方法により約束し教えている、大いなる富や金や銀を造る約束を自らに下しているか、あるいは約束された報酬に到達し満たすまでは苦難と苛立ちの中を進む覚悟を決め、それらから逃げないよう決意する者もいよう。
 だが、それらの数千人の中の一人すらもその願望に達成出来ない事を日々の経験は教えている。これは自然か錬金術の失敗なのだろうか? それについて、私は否と言う。むしろそれは、運が悪かったり、作業者の未熟さが原因なのである。
 それゆえ、恒星と惑星のサインの印、さらに加えて他の名前、逆読みにする言葉、レシピ、マテリアル、道具などは、この術を達成するために必要だと良く知られているので、それらを本書で再び説明するのは余分であろう。もっとも、そのようなサイン、名前、印を適切な時間に用いるのは不要という訳ではない。
 だが本書では、錬金術を先に述べた方法とは違った方法で扱い、7つの金属からの7つの基準(カノン)により分割する。これは無論、大袈裟な言葉のために範囲を与えているのではない。だが、これらの基準には、錬金術から離しておくべき概念は充分な長さで扱われており、さらに他のものの多くの秘密もここに含まれているのだ。ゆえに、素晴らしい推測の結果があり、新しい作業もある。これは古の書や自然哲学者たちが書いたものや作業とは大きく違い、完全な証明と実験によって確認され発見されたものなのである。
 さらに、この術には、あまり知られておらず、僅かしか信じられていないが、本書で述べること以上に真実なものは無い。多くの者が貧困に落ちたり、無駄な作業にしている、錬金術の失敗と難行の全ては、作業者の技術の不足のみが原因だったり、マテリアルを多く入れ過ぎたり少な過ぎたり、量や質に問題があったりして、作業の間に物質が無駄になったり無に減ったりするからである。この真のプロセスが発見されたなら、物質は日々完全に向けて変容しようとするだろう。この直線の道は容易であるが、ごく僅かな者しか見つけていない。
 時には、思弁的な術者が、自らの奇抜な発想から、錬金術の新しい方法を思いつく事がある。だが結果は成功したり何も起きなかったりする。中には物質を無に減らしたり、そこから再び物質を戻したりするのに、何もする必要が無い者もいるという。だがこの信じがたい逸話は、全てが偽りでは無い。破壊は良きものを完全にする。良きものは物質の中に隠れているうちには現れられないからである。ゆえに、良きものは隠れているうちはほとんど価値が無い。良きものが自由に自らを輝かせるためには、隠すものは取り去らなければならない。例えば、中で金属が育つ山脈や砂地や大地や石が隠すものである。それぞれの見える金属は、他の6つの金属を中に隠している。
 それゆえ、火のエレメントにより、5つの金属、水星(水銀)、木星(スズ)、火星(鉄)、金星(銅)、土星(鉛) (*1)といった不完全なものは、破壊され取り去られる。一方、完全な金属、太陽(金)と月(銀)は同じ火によって消耗されず、これらは火の中に留まり、それと同時に破壊された他の不完全な金属から、目に見える自らの物体を露にするのである。どのように、何の方法により、これらが行えるのかは、この7つの基準の書の中で見い出せるであろう。それぞれの金属の性質と特性、他の金属に対する効果、これらを混ぜたら何の力が得られるかを学べるからである。
 そしてこの前文で注記しなくてはならないのは、この7つの基準は一瞥や一読のみでは興味本位の読者には完全には理解できないだろうことだ。劣った知性の者は、容易にはこの秘められた深遠な主題を理解できない。この基準それぞれは、わずかな議論も必要としない。多くの者は、プライドにより偉ぶりたいから、本書に含まれたもの全てを容易に理解できると自惚れる。ゆえに、彼らは本書の内容を無用で偽りのものとし、自らのものが遥かに優れていると考え、それにより彼らは本書に含まれるものを見くびる事が出来るのである。


天の哲学 第一部

金属の7つの基準

第1の基準 水星(水銀)の性質と特性について (*2)

 全ての物は全ての中に隠れている。その中の1つは――その物質的な入れ物、外面的で、見えて、動くもの――によって、残りを隠している。全ての流体的な性質は、この入れ物の中に現れている。この入れ物は生ける物質的な霊であり、それゆえ流れたり巡るのを止められても、これを取り囲むものの凝固や凍結は無いのである。この液化にはどのような名前も見い出せないが、それにより区分できよう。さらにこの起源については、それよりも知られていない。この中ほど高い温度は無いので、これはゲヘナ(地獄)の火と比較する事が出来よう。この種の液化には、他の自然の火により作られたものとの繋がりは無く、その凝固や凍結も、他の自然な冷却により作られたもののとの繋がりは無い。これらの凝固では、その弱さを通じて、水星を得る事は出来ないので、彼(水星)はこれらを全く軽蔑する。術師は破壊のプロセスを通じてエレメンツの諸力を集められるが、天上の諸力(いわゆる精髄ともそのエレメンツとも呼ばれる)からは何も追加したり取り去ったりはできず、その働きの能力も無い。天上と地獄の諸力は、四大エレメンツ、乾いているもの、湿ったもの、熱いもの、冷めたものには服従しないからだ。これらの何れもが、精髄に対して影響する力を持たず、それぞれの中で、自らの諸力と行動の方法を保っているのである (*3)

第2の基準 木星(スズ)の性質と特性について

 これ(すなわち、木星の物体)が発現したとき、他の6つの物質的な金属は霊的に隠されるが、ある金属は他よりも深く頑強に隠される。木星はその構成要素の中に精髄は無く、四大エレメンツの性質によるものである。それにより、液化は平均的な火によりもたらされ、同様に凝固も平均的な冷却によりなされる。木星は、他の金属の液化全てと親和性がある。他の金属の性質と近ければ近いほど、より容易にそれらと合する事により合一するからである。そして近いものとの作業の方が、遠いものよりも容易でより自然である。離れた天体は、他のものを押す事は無い。同時に、それはとても強力であろうが、恐れられないのだ。ゆえに、人々が創造の上位の階級(天使)を、それが遠すぎて、その栄光を見ないゆえに、熱望しないという事が起きる。同様に、彼らは低位の階級を多くは恐れない。それらは遠くにあり、生きている者らは、それらの状態を知らなかったり、その懲罰の悲惨さを経験しないからである。この理由から、地獄の霊たちは存在しないかのように扱われている。より遠いものは、より安っぽく、低位の存在に置かれているからだ。その場所の性質により、それぞれのものは良くなったり変容したりするからである。これらは様々な例によって証明されている。
 ゆえに、木星(スズ)は火星(鉄)や金星(銅)から遠くにあり、太陽(金)や月(銀)に近い程、そのいわば「黄金性」や「銀性」は強まり、その物体の中により多く、強く、より見えるようになり、より明白で心地よく、より同意でき、より区別でき、より真実として、遠くにあるものよりも見い出せる。同様に、より遠くにあるならば、先に述べたものらはより少なくなっていく。その場にあるものは、無いものよりも常に好まれるからである。近くにあるものほど明らかであり、遠くにあるものほど隠される。それゆえ、以下のことはあなたが錬金術師として、真剣に自らに問うべきことである。どのように、木星を太陽と月がある離れた難解な場所へと置けるか、今度はどのように、太陽と月を離れた場所から木星のある近くへと呼べるかをである。それによって、この同じ方法により、太陽と月もあなたの目の前で真に物質的に存在するだろう。この不完全なものから完全なものへの金属の変容のためには、様々な実践的なレシピがある。互いに混ぜ、それから、再び他から純粋なものを分離せよ。これは完全な錬金術の工房による秩序立てた置き換えのプロセス以外の何物でもない。ちなみに、木星はより多く金があり銀が少ないのに注意せよ。土星(鉛)と月を木星に加えよ。それにより残りの月は拡張されるだろう (*4)

第3の基準 火星(鉄)の性質と特性について

 6つの秘められた金属は、それらから7番目を追い出して、それを物質的にし、少しの効能のままにして、それに大いなる硬さと重量を与えている。これにより、これらは全ての自らの凝固作用と硬化の力を振り払い、それらはこの他の物体の中に現れている。一方では、その色や液化は、その高貴さとともに保持している。王や君主が不適切な平民階級から出てくるのはとても難しく、苦難に満ちているようにである。だが火星は主権を獲得している。その強く好戦的な手により、玉座を占拠しているのだ。だが火星は罠に対しては、突然に予想せずに捕らえられたりしないように、自らを守らねばならない。また、どの方法により火星が王の座を得るのか、太陽と月が土星とともに、火星の場所を保持するかも考慮しなくてはならない (*5)

第4の基準 金星(銅)の性質と特性について

 他の6つの金属は金星に、自らの色や液化の方法により、外側の物体を与えている。これを理解するためには、私は例により、どのように明白なものが秘められたものへと隠され、また隠されたものが火により明らかにされるかを示す必要があろう。可燃性のものは火によって自然とあるものから別のもの、すなわち、石灰、煤、灰、ガラス、色、石、土などへと変えられる。これらはまた、新しい金属の物体へと戻す事も出来る。金属も焦げていたり、古い錆により脆弱になっていたら、火を用いる事で再び属性を獲得することが出来るようにである (*6)

第5の基準 土星(鉛)の性質と特性について

 自らの性質について、土星はこのように語っている。他の6つは私を彼らの審問官として放った。彼らは私を彼らと霊的な場所から押しのけて、彼らはまた住む場所として、腐敗しやすい体を私に与えた。それにより私は彼らとは違い、彼らのようになろうとも思わない。我が6人の兄弟たちは霊的であり、しばしば私を火に入れると、彼らは私の体を貫き、私と共に火により滅びるが、太陽と月は別である。これらは我が水の中で浄化され高尚となる。我が霊は我が兄弟たちの堅く凝結された体を柔らかくする水である。だが私の体は大地へ向かう傾向がある。私の中に受け取ったものは何であれ私に従うようになり、我がやり方により、1つの体へと変容する。私の中に何が隠されているのか、私が効果を与えるのかを、学ばねばならなかったり、少なくとも信じなくてはならないなら、ほとんど使い物にならないだろう。むしろ、私自身で何が行えるのかを確かめる方がより利益となるだろう。錬金術の全ての方法を捨てたら、唯一私の中にあるものと、私によって行えるものを用いるだろう。冷たい石は私の中にある。これは6つの金属の霊たちを第7のエッセンスに凝固させる水である。そしてこれは、太陽を月へと上げるものである (*7)

 そこには2つの種類のアンチモンが見い出せ、1つは一般的な黒いもので、太陽はこの中で液化する事で浄化される。これは土星と密接な親和性がある。もう1つの種類は白いもので、これはまたマグネシアとも蒼鉛とも呼ばれる。これは木星と大いに親和性があり、他のアンチモンと混ぜ合わせたら、月を強化する。

第6の基準 月(銀)の性質と特性について

 月から土星や火星を作り出す試みは、大いなる労苦とともに水星、木星、火星、金星、土星から月を作り出す試みよりも、軽くも簡単でもない。完全な金属から不完全なものへと変容させるのは、後者から前者にするほど役に立たない。にもかかわらず、月のマテリアルとは何か、あるいはどこから導かれたかを知るのは良いことである。これらについて考えたり発見できない者は、月を造る事は出来ないだろう。では、月とは何であろうか? これは霊的に隠された7つの金属の中で、それ自体は7番目で、外的な、物質的な、形質的なものである。この第7のものは、常に自らの中に霊的に隠された6つの金属を中に含んでいる。そしてこの6つの霊的な金属は、外的で物質的な金属無しには存在出来ない。それゆえ同様に、外的な金属はこれらの6つの霊的な金属無しには場所やエッセンスが無い。7つの物質的な金属らは、液化により容易に混ぜることが出来るが、この混合物は、太陽や月を造るのには役に立たない。そのような混合物の中には、それぞれの金属は自らの性質を残しているか、火によって固められているか、あるいはそこから逃れているからである。例えば、あなたが行える方法により、水星、木星、土星、火星、金星、太陽、月を混ぜたとして、太陽と月がその力により他の5つの金属を太陽や月へと変える事は無い。液化により1つの物体にしても、それぞれの性質は残っているからである。これは物質的な混合物が経過しなくてはならない審判である。そして、霊的な混合物と金属の合一については、分離や抑制は霊的ではないと知るべきである。そのような霊は物体無しには決して存在出来ないからだ。物体はそれらから取り去られて1時間に100回は抑制しなくてはならないが、にもかかわらず、これらは常に別の前よりも高貴な物体を得るであろう。そしてこれは、1つの死から別の生への金属の変容である。言い方を変えると、低位の階級から、より偉大で高位の階級、つまり月にするのである。そして、そこから最良のもの、最も完全なもの、すなわち太陽、輝く王者の金属を作り出す。上記で何度も言っているように、6つの金属は常に7番目を生成する、あるいはそれらから、そのエッセンスを清めるのは最高の真理である。
 ここである疑問が湧くだろう。月とあらゆる金属が、他の6つの金属から、その源を導き出せ、生成されるのなら、その特質と性質は何であろうか? これについての私の返答は、土星、水星、木星、火星、金星、太陽からは、月以外の金属は生成されない。その原因は、それぞれの金属には他の6つの金属の2つの良い性質を持っている。そしてこれらが重なる事で12の性質がある。それらは月の霊であり、それらはごく僅かな言葉のみが知られている。月は6つの霊的な金属とそれらの性質から作られており、それぞれには2つずつの性質を持っている。それゆえ、これらを1つとする事で、12の性質は1つの物質的な金属へと混ざり合い、それらは7つの惑星と12の黄道の宮と比べられよう。月は水星の惑星と宝瓶宮と双魚宮から流動性と輝く白い光を得ている。また月は木星と人馬宮、金牛宮から白い光と火の中での大いなる堅固さを得ている。月は火星と巨蟹宮、白羊宮から堅さと清澄な音を得ている。月は金星と双児宮、天秤宮から凝固作用の方法を得て、土星と処女宮、天蝎宮から重力において等質的な体を得ている。そして太陽と獅子宮、処女宮から、汚れなき純粋さと火の力への耐性を得ている。これらが大まかに要約した、その構成する性質と知恵とともに、月の物体と霊の軌跡と自然な高揚の知識である。
 さらに、天の影響による原始的な生成によって金属の霊たちが得る物体が、どのような種類であるかも指し示さなくてはならない。例えば、鉱夫が相応しい大きさに石を砕いて、火により液化させ、崩して、形成させるとしよう。するとこの金属の霊は、この解体のプロセスによって、より良き高貴な物体を得て、壊れやすいものではなく柔軟なものとなる。そして錬金術師のもとへと来ると、再び金属の体を崩して融かして人工的に準備する。すると再び金属の霊は、より高貴で完全な物体を獲得し、太陽や月以外は、自らを光へと向ける。そしてようやく、金属の霊と物体は完全に結び付き、腐敗や火のエレメントから安全となり、腐敗しなくなるのである (*8)

第7の基準 太陽(金)の性質と特性について

 これら6つの霊的な金属の次の7番目は物質的な太陽であり、これ自体は純粋な火以外の何物でもない。外側の姿で、太陽よりもより美しく輝き、透明で知覚され、重く、冷たく、等質的な体を持っているものはあるだろうか? これらの原因は容易に知覚出来る。すなわち、太陽は自らの中に他の6つの金属を凝固させており、それらにより最も完全な物体を形成しているのである。その流体性は火エレメントや水星と双魚宮、宝瓶宮の流体性が原因となっており、自らの中に霊的に隠している。その最も明らかな証明は、水星は容易に太陽と抱きかかえるように混ざるからである。だが太陽は、液化した後に熱が引いて冷たさに覆われたら、凝固して固くなるので、木星、土星、火星、金星、月の他の5つの金属も必要であり、それらの性質も中に含まれる。これらの5つの金属の中とその統治に冷たさが留まるのは特に見い出せよう。ゆえに先に述べた冷たさの理由から、太陽は火の熱なしには液化は難しい。水星の熱は太陽を液化状態に維持するには充分では無いので、水星はその自然の熱や液化の性質によって助ける事は出来ないし、あるいは自らを5つの金属の冷たさから守る事が出来ないからである。ゆえに太陽は水星のみでなく、他の5つの金属に従わなくてはならない。水星自体は常に流れること以外にはその権能はなく、そのため他の金属らが凝固作用をしていると、それは何の影響も与えられなくなる。この星の性質は何かを固くするのではなく、液化させるからである。液化を与えるのは、熱と生命の性質であるが、冷たさは死と比べられる固さ、凝固、不動の性質である。例えば、6つの冷たい金属、木星、金星、土星、火星、金星、月を液化させたいなら、火の熱によりその状態にもたらさねばならない。冷たい雪や氷はその効果をもたらさず、むしろ固めるだろう。火によって液化した金属から火を取り除いたら、すぐに冷たさが征服し、それらを堅くし、凝固させ、不動にする。だが、水星が液体のままであり、継続的に生きているようにするには、私はあなたに問うが、これは冷たさに熱が影響したのだろうか? これが冷たさと湿気の性質からもたらされ、その生命は冷たさから来ているという意見は、自然への何の知識も持っていない大衆により主張されている。だが大衆の判断は過ちのみであり、常に失敗しており、ゆえに真理を愛する者は、この意見から離れていよう。水星は実際には冷たさからのみ生きているのではなく、温かさや火の性質によっても生きている。何であれ生きているものは火である。なぜなら、熱は命であり、冷たさは死だからである。太陽の火は自らが純粋で、それ自体は確かに生きていないが、激しく、硫黄の黄色と赤がその比例により混ざった色を示す。5つの冷たい金属は、木星、火星、土星、金星、月であり、それらの性質を太陽に与えている。冷たさに関してや、その物体自身、火に関してや、色、乾燥性、硬さ、湿気、主さ、輝き、音などをである。だが金は地上の火のエレメントにより燃やされる事も無く、腐敗すらしないが、天上の太陽からは影響を受ける。1つの火では他を燃やす事はおろか、食い尽くす事すら出来ないが、火に火を加えたら増大し、より強力になるからである。太陽によりこの地上の我々へと流れてくる天上の火は、天にある火とは違い、また地にあるものとも違う。だが我々のこの天上の火は冷たく凝固しており、それは太陽の物体(金)である。ゆえに太陽は我らの火により征服される事は全く無いが、同じ天上の太陽からのみ、これらは雪や氷のように液化するのだ。この火はゆえに、燃やす火の力は無い。太陽は天で分解し、我らにより凝固となった火だからである。

 要約すると、金はそのエッセンスで、1. 天上的(解消)、2.エレメント的(液化)、3. 金属的(固体)の3つがある。

7つの基準 終


天の哲学 第二部

7つの基準から導かれた特定の論書と付録


神と自然の行いは無には帰さない

 万物の永遠の場所(神)は時の流れから独立しており、始まりも終わりも無く、万物に作用し、本質的には他には何の希望も無い場所で働く。それは一見して不可能に思える事を達成する。信念や希望を超えたものが、驚異的なやり方の後に真理を明らかにするのである。

生ける水星についての注釈

 白色をした物質は何であれ、生命の性質があり、生命を生み出す原因となる光の力と性質がある。一方では、黒色をしていたり黒を生み出すものは、一般的には死の性質があり、闇の特質と死を生み出す力である。そのため、この冷たさのある大地はこの種の堅さによる凝固と堅固の性質がある。家は常に死んでいるが、その家に住む者は生きているからである。あなたが以下で示すフォースを見つけたなら、それを征服するであろう。

 液化性の粉末を試し、バーベナの花の脂肪を燃やせ (*9)

 レシピ――塩硝石を4オンス、硫黄を半オンス、歯石を1オンス混ぜて液化せよ。

水星の凝固についてどう考えるべきか

 水星を抑制したり凝固させ、その後に月にしようとしたり、大いなる辛苦の末に昇華させるのは、無駄な労働である。なぜなら、作業の途中で中にある太陽と月を失わせるからである。別の方法があり、それは大きく違っており、より簡潔である。そこでは水星をわずかに使うのみで、労苦はより少なくて済む。またこれは、凝固させる事無く月へと変容させる。この錬金術はシンプルで容易なので、誰でも喜んで学ぶ事が出来る。そして短い期間で、望むだけの量の銀と金も造れるようになるだろう。長い説明を読むのは大変だし、誰もが直接的な言葉で示されるのを望む。ゆえにそうしよう。以下のように行うなら、あなたは太陽と月を得て、その助けにより、とても豊かな人となれるだろう。読むのに少し時間を使うように懇願する。このプロセスはあなたに僅かな言葉で示すことができ、それらの言葉は良く消化されるだろう。では言おう。土星(鉛)、水星(水銀)、木星(スズ)から、あなたは太陽(金)と月(銀)を造れるだろう。世にはこれ以上に簡単に見つけて実践でき、それ自体で効果的な術は今も未来も無いだろう。この錬金術により太陽と月を造る方法は迅速であり、去年の雪について書くよりも、書物も入念な教授も必要としない。

錬金術のレシピについて

 では錬金術のレシピと、その多様な入れ物と道具について私は何を言うべきであろうか? 錬金術で用いる道具には、炉、眼鏡、瓶、水、オイル、石灰、硫黄、塩、硝石、明礬、硫酸、 珪孔雀石、緑銅、黒インク、石黄、大青毒、鉛白、赤土、ツキア、蝋、封泥、ガラスの粉末、緑青、煤、卵の殻、火星のクロッカス草、石鹸、水晶、チョーク、砒素、アンチモン、鉛丹、エリクサー、青金石、金箔、硝酸塩、塩化アンモン石、異極鉱、マグネシア、アルメニア土、その他多くのものが使われる。さらに、準備、腐敗、同化、観察、解決、接合、濾過、反射、焼成、目盛、精溜、融合、浄化などについては、多くの錬金術書に詰め込まれている。そして、ハーブ、根、種、木材、石、動物、ウジ虫、骨粉、爪、その他の殻、樹脂といったようなものの中には、錬金術においてこじつけめいたものもあり、作業に苦労する。たとえ太陽と月がこれらから造られたとしても、それらはその目的を防いだり遅らせたりするだろう。だが、――真実を語るならば――それらの中には太陽や月を造る術は無いのだ。ゆえに、これらの事は全て無視せよ。これらには太陽と月に関しては、5つの金属に対して何の効果も無いからだ。すると、読者はこう尋ねるかもしれない。ならば、短くて簡単に太陽と月を造る方法はあるのか? その私の答えは完全かつ大っぴらに、先に述べた7つの基準の中で示している。これらを理解しない者に教えても、無駄な事だろう。そのような人物に、これらの事柄はかくも容易に理解できるが、それらは秘められたやり方によってであり、開かれた感覚の方法ではないと納得させるのは不可能であろう。

 「これが、その術である」。あなたは土星の天あるいは圏を造り、その生命を大地の上に走らせ、それを惑星全ての上に1回か、あなたが望むならば数回置くなら、その比例に応じて月の大きさが決まろう。天あるいは土星が完全に消えるまで、全てを走らせよ。そしてこれらの惑星全ては古い腐敗する物体のまま残り、その間に新たな完全な腐敗しない物体を得るであろう。
 この物体は天の霊である。これより、これらの惑星全ては再び、物体と生命を得て、前のように生きるであろう。この物体を生命と大地より取り、それを保持せよ。これは太陽と月である。私はこの術をここで全て完全かつ明白に示した。あなたがこれでも理解できないならば、あるいはそれらを実践しないならば、まあ良かろう。これは大衆の前には隠した方がいいだろう。

水晶の中に万物を見るための方法

 この見る方法は、何かを知り理解するために正しく観察すること以外の何物でもない。水晶は風の存在である。風の中に動くもの、動かないものが何であれ現れるなら、同じものは鏡や水晶の中にも波として現れる。風や水や水晶では、鏡が物を左右対称に映すように、幻視に関しては一つだからである。

水星の熱について

 水星(水銀)は湿っていて冷たい性質を持つと考える者は大きく間違っている。これは最も高い熱を持つ性質があり、それにより継続的な液化の状態にあるからだ。これが湿って冷たい性質があるなら、氷のように表れ、常に硬く堅固であろう。よって液化するには他の金属のように火を使う必要があったろう。だが水星には不要である。これは自然と生まれた時から流体であり、この流体を維持し続けて、「素早く」それを与える。よって、これは死ぬことも腐敗することも凝固することもない。また注記する価値があることとして、7つの金属の霊たちは、あるいはこれらの多くを混ぜ合わせ火に近づけたら、他のもの、特に水星の性質を含むようになる。それにより、それぞれは液化と変容に関する力と性質の熟達を得るようになる。1つのものが、他の性質、生命、形態を得て、ほかの性質と形態をこのものへと与える。それにより、金属の霊ないし蒸気は、熱によりお互いに混ざり合い、1つの性質から別のものへと変容し、やがて完全と純粋を得るようになるのである。
 だが熱と湿気を取り去り、大きな冷気により水星に腐敗と凝固と抑制を与えるためには、水星のそばで何をすべきであろうか? それには以下の言葉に忠実に従うのだ。純粋な水星を銀の箱の中に入れ、壺を鉛の断片で満たし、その真ん中に銀の箱を置く。それから自然な日光に24時間置いておく。これにより水星から秘められた熱を取り去り、外的な熱を加え、土星と月(どちらの惑星も冷たい性質がある)の内なる冷たさを与える。これにより水星は凝固し硬くなる。
 また、冷たさ(水星が凝固し制約されるためには必要である)は、雪や氷のような外的な感覚において知覚するものではないのに注意せよ。むしろ、外的には一定の量の熱がある。水星が液化するための熱も同様である。これは外的な知覚可能な熱ではない。また、外的には冷たさも知覚可能ではない。詭弁家たち(真の知恵よりも議論を好む連中だ)は水星は冷たく湿った性質があると間違って断言し、彼らは熱の方法により凝固させるよう勧めている。だが彼らが日々自らのものが増えるのではなく減っているのを見つけているように、熱はより液化させるのみである。
 真の錬金術それ自体は、その唯一の術により、どのように5つの不完全な金属から太陽と月を造り出すかを教え、これ以外にレシピを必要としない。これらはかように良く真実に述べられよう。唯一、金属から、金属に、金属により、金属とともに、完全な金属が造られる。それらの1つは月であり、もう1つの金属は太陽である。

錬金術に何の金属と道具が必要か

 鋳物所、空ごう、はさみ道具、トンカチ、釜、壺、そしてブナの灰から造った幾つかのもの以外に必要な物はない。これらを集めたら、土星、木星、火星、太陽、金星、水星、月を置いて、最終的に土星へとこれらを作業させよ。

金属を探す方法

 これらを大地と石より見つける希望はほとんど無く、大きな辛苦を伴う。だが、これは得るための最初の行動ゆえ、避けるべきでなく、勧められるものである。そのような望みや欲望は、若者たちの結婚生活を望む性向と同じように取り除くべきでない。蜂が蜜と蝋を造るためにバラや他の花に長くいるように、人も――金への貪欲や自らの名誉欲は別として――大地より金属を取るべく探すべきである。探さない者は決して得る事は無いだろう。神は人に金と銀のみならず、貧しさ、みすぼらしさ、窮状も与えている。一般的に行われるような掘ったり匂いを嗅いだりする必要もなく、これらの原始的な物体から取り出す事により、金と銀を容易で短期間に得られる金属と鉱物の知識をも、神は我らに与えている。これは地下の物質についてのみならず、特別な知識と技術により5つの一般的な金属(すなわち、不完全な金属と呼ばれる鉱物より抽出された金属)から取り出せる。すなわち、水星、木星、土星、火星、金星、これら全てから、そしてそれぞれ個別から、太陽と月は造る事が出来る。だがより容易に行えるものもある。太陽と月は水星、土星、木星からは容易に造れるが、火星と金星からは難しい事に注意せよ。これらを造るのは可能であるが、太陽と月に加える事によってである。マグネシウムと土星から月は生まれ、木星と純粋な辰砂から太陽は起き上がる。だが有能な術師は(私はよく覚えているが!)金属の準備の素晴らしい考慮と思索の真の方法により、7つの惑星と12のサインの軌道が行う方法よりも、より優れた金属の変容を完成させるのが可能となろう。この方法では、これらの軌道、そのアスペクト、日と時間の吉凶、これらの惑星の幸福や不幸な状態を観察するのは、全く余計な労働である。これらは自然錬金術のこのアートでは何も良いことを行わず、むしろ害となるからだ。これらを使わなくても、あなたがうまく行きそうならば、好む時に作業せよ。だがあなたや、その作業の状態、その理解で欠けた部分があれば、天の惑星と恒星は、あなたの作業に大きく影響しよう。
 金属が地下に充分に長く埋められていたら、錆に覆われるのみならず、これらは自然な石へと変容する。それらは多くあるが、知られているのはごく僅かである。異教徒の貨幣と呼ばれる古い石があちこちで見つかっており、そこには様々な人物像が彫られている。これらのコインは当初は金属であったが、自然により長い変容の結果、石となったのである。

錬金術とは何か

 錬金術とは金属を一つのものから別のものへと変容させる目的、意図、微細な試み以外の何物でもない (*10)。これらに従い、個々の人間は、自身の精神的な理解に応じて、より良い方法と術を選ぶ事ができ、そこに真理を見い出すであろう。物事により厳しく従う者は、真理を見つけるからだ。星々と石の正しい分析は大いに必要である。星は全ての石を教える霊だからである。天の星々の中でも太陽と月は、それ自身の石以外の何物でもなく、地上の石は天の石から、天の石と同様の火、炭、灰、同じ爆発と浄化によって来たものだからである。これらは分離されて、もたらされ、その輝きは純粋で清澄である。地球全体は、放り出され、固められ、混ぜられ、腐敗させられ、地上に置かれ、そして再び凝固され、徐々に一つの塊、石の働きへと液化させられ、天の圏の中心に座を持ち、休むのである。
 さらなる注記として、これらの地下にある宝石は、天上や星座のものの完全、純粋、美、輝き、徳、火に対する力、腐敗しない性質に類似しており、これらは他の大地の石により固定されている (*11)
 それゆえ、これらは天上の石や星々と強い親和性がある。これらの性質は星々からもたらされたからである。これらは荒い地形で見つけられる。そして大衆は(彼らは常に間違った観点を持つので)これらが見つけた場所と同じ場所で造られたと信じている。そして、これらが発見された後には、磨かれ、動かされ、固められ、これらの色や美、その他の性質により、大いなる富を得られるであろう。では以下において、これらの石について簡潔な説明をするとしよう。

 エメラルド。これは緑色の透明な石である。これは目と記憶を強化するのに良い。またこれは貞節を守り、これを持つ者によって破られたら、石は完全さを維持しなくなる (*12)

 アダマント。黒い水晶で、アダマントとも喜びの石とも呼ばれる。これを持つ者に喜びを与える効果がある。これは曖昧で透明な黒さ、鉄の色を持つ。これは最も硬い石であるが、山羊の血によって溶ける。最も大きいものでも、ハゼルの実より大きくはならない (*13)

 磁石は鉄の石であり、鉄を引き寄せる (*14)

 真珠は海の貝殻から生まれるので石では無い。白色をしており、人にせよ魚にせよ、動くものがこれを持ち運ぶと育っていくように見える。これは石そのものの性質というより、堕落した(あるいは変異した)完全な作業に介入した自然による性質である (*15)

 風信子石(ヒヤシンス)は黄色で透明な石である。同じ名前の花もあるが、詩人らの寓話によれば、かつては人間だったという (*16)

 サファイアは天の色と性質を持つ石である (*17)

 ルビーは激しく赤く輝く (*18)

 カーバンクル石は太陽の石であり、太陽のように自ら輝く (*19)

 珊瑚は白か赤い石であり、透明では無い。これは海で水と風により育ち、樹や低木の形となる。これは風で硬くなり、火によっては破壊されない (*20)

 玉髄は様々な色が混ざった石であり、曖昧と明白の中間の色をしている。また曇っていて、生き生きした色とも混ざり合っている。これは全ての宝石の中で最低のものである (*21)

 トパーズは夜に輝く石である。これは岩の辺りで見つかる (*22)

 アメジストは紫と血の色をした石である (*23)

 翡翠は夜に火のように見え、昼には黄金のように見える。

 水晶は氷に非常に似ている白い透明な石である。これは他の石から摘出され生み出される (*24)

 この事柄の堅固な基礎として、以下の結論を記そう。誰にせよ知的で合理的に金属や、それらが何であるか、どこでそれらは生み出されるのかを学んだなら、我々の金属は一般的な石、すなわち樹脂、獣脂、脂肪、オイル、石の最良の部分と霊以外の何物でもないと知るであろう。だがこれらは石に隠れたり混ざっている限り、不純で汚染され不完全である。それゆえ、石の中で見つけて摘出して力づくで引き寄せて液化する必要がある。それにより、これはもはや石ではなく、完全な金属であり、それ自体が地上のとは違う石である、天の星々と比べられよう。
 それゆえ誰にせよ鉱物と金属を学ぶには、鉱山の奥深くで見つけられるような一般的に知られている金属のみではなく、他のものも知るべきである。それらは、地上のとても浅い表面でも見つけられる。そして、見つけたあらゆる石は、その大きさに関わらず、たとえ火打石や単純な岩にせよ、その自然と特質に応じて慎重に観察して正しい秤により重さを量るのだ。捨て去られて顧みられない一般的な石が、雌牛よりも価値があることも多いものだ。また、この石が見つかった場所のみに注視すべきではない。それには天の影響の方が勝っているからだ。土にせよ塵にせよ砂にせよ、どこであろうとも金や銀がしばしば含まれている石を、あなたは見つけるであろう。

これにて、天の哲学は終わる


 

  • 最終更新:2023-06-08 14:57:26

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