黄金の夜明け団の技法

 
黄金の夜明け団の技法
現代魔術の基礎技法

Hiro著


序文

 19世紀末から20世紀初頭に活動した魔術結社「黄金の夜明けヘルメース団」は、クロウリー、ウィッカ教などを経由して、現代魔術、オカルトに多大な影響を与えており、特にその技法については、現代でも多数の魔術師が(知るにせよ知らないにせよ)用いている。たとえこの体系に興味のない魔術師にも、基礎教養として、これらの技法は知っておく価値があると思い、ここに記事として纏めておく事にした。

四拍呼吸

 まずは呼吸法についてから。黄金の夜明け団では参入者に、儀式や瞑想を始める前にリラックスし、精神を落ち着かせるため、しばらくは4秒息を吸い、4秒保息して、4秒で息を吐き、再び4秒保息するのを繰り返す呼吸法を勧めていた。あるいは4秒で呼吸して、2秒で保息する別バージョンもある。これはヨーガの複雑な呼吸法と比べて、はるかにシンプルであるが、精神を落ち着かせる効果としては充分であり、ヨーガの高度な呼吸法は下手に行ったら心身を傷めるので、黄金の夜明け団がヨーガなどの呼吸法に慣れていない西洋の学徒に対して、このように指導したのは、今から見れば英断に思える。

カバラ十字

 これは儀式の開幕や終わりなどに行う、魔術師の「十字を切る」しぐさである。カバラの名前がついている理由は、ヘブライ語で唱えるからであるが、内容には薔薇十字の要素も含まれている。

 (1)垂直に立つ。
 (2)短剣(無ければ利き腕の人差し指と中指を合わせて伸ばし、残りの指は曲げる)で額に触れて、「アター(אתה あなたは)」と唱える。
 (3)垂直に降ろして胸に当てて、「マルフート(あるいはマルクト。מלכות 王国)」と唱える。同時に白い光が天から頭、体の中心を通過して大地へと垂直に降りていくとイメージする。
 (4)右肩に触れさせ、「ヴェ=ゲヴラー(וגבורה そして力)」と唱える。
 (5)左肩に触れさせ、「ヴェ=ゲドゥラー(וגדלה そして栄光)」と唱える。同時に光が右側から左側へと水平に進むのをイメージする。これで光の十字が形成される。
 (6)腹部の上部で両手を組んで短剣の柄を持ち(先端は降ろしておく)、「レ=オラーム(לעולם 永遠に)」と唱える。
 (7)短剣の尖端を上へと向けて、「アーメン(אמן)」と唱える。同時に、十字の交差する中心に赤い薔薇が咲くのをイメージする。

 これはキリスト教のミサで「国と力と栄光は限りなくあなた(神)のものです。アーメン」の文(さらに、プロテスタント版の主の祈りの終わりにも付け加えられている)をヘブライ語風にしたものである。ヘブライ語として見たら、厳密には上手い訳ではないが(定冠詞を使わなかったり、所有格でないなど)、今では西洋魔術の伝統となっているので、そのまま紹介する。

小五芒星追放の儀式(LBRP)

 この儀式は西欧では、Lesser Banishing Ritual of the Pentagramの略のLBRPの用語でよく使われており、この記事でも以後はこれを用いる。ここでいう「追放(Banishing)」とは、その儀式を行う空間の霊的な影響(それは善と悪の両方を含んでいる)を取り除き、「中立化」するのに用いるからである。この儀式を霊的な掃除と呼ぶ魔術師もいる。
 もともとは団の内陣(インナーオーダー)のアデプタス メジャー(大達人)へと昇格した会員にのみ教えられていた「奥義」であり、現代魔術師の中には、黄金の夜明け団はこの技法を後の世に伝えただけでも価値があったと述べている人もいる。また最近人気の魔術師ダミアン エコールズ(Damien Echols)も、この儀式は黄金の夜明け団の「哲学者の石」であると述べている。

 (1)先のカバラ十字を行う。
 (2)次に東へと向いて、「地の追放の五芒星」を以下の図の1-2-3-4-5-1の順に空中に描く。またイメージでも青白い光で空中に描き、それを保つようにする。

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 (3)それからヘブライ語の神名「ヨッド ヘー ヴァヴ ヘー」を震わせる声で唱える。
 (4)それから両手を前に伸ばして、上半身は前へと倒れるように片足を一歩前に進ませる(これは「入場者のサイン」と呼ばれる)。あるいは単に短剣を持つ手を伸ばすバージョンもある。そして五芒星の中心を短剣の尖端で突くと同時に、青白い光の線の五芒星が青白く燃え上がるとイメージする。
 (5)短剣を持った手を伸ばしたまま、円形に90度時計回りに回転させ、南へと向かう。ここでもまた、イメージで空中に青白い光の1/4の円を造る。
 (6)南へと向くと、再び五芒星を空中に描き、今度は「アドナイ」の神名を唱え、同様に体を前に倒す。それから時計回りに90度回転させる。
 (7)西へと向くと、五芒星を描いて、「エヘイェー」の神名を唱えて、体を前に倒す。それから時計回りに90度回転させる。
 (8)北へと向くと、五芒星を描いて、「アーグラー」の神名を唱えて、体を前に倒す。それから時計回りに90度回転させる。これによって、イメージでも青白い光の円が完成する。
 (9)それから東に向いたまま、両手を左右に延ばして、自らを十字にする。そして目を閉じて、円の四方(さらに四大エレメンツ)の大天使の諸力を招聘する。
 (10)「我が前にラファエル」と唱えて、目の前に風の大天使が立つのをイメージする。
 (11)「我が後ろにガブリエル」と唱えて、背後に水の大天使が立つのをイメージする。
 (12)「我が右にミカエル」と唱えて、右側に火の大天使が立つのをイメージする。
 (13)「我が左にアウリエル(あるいはウリエル)」と唱えて、左側に地の大天使が立つのをイメージする。
 (14)「わが周りに五芒星は燃え、我が頭上に六芒星が輝く(あるいは「柱の中に六芒星が輝く」のバージョンもある)」と唱えて、先に描いた周囲の4つの青白い光の五芒星が燃えるように光を強め、頭上の六芒星が輝くのをイメージする。
 (15)最後に再びカバラ十字を切ってから、儀式を終える。

 この四方、四大エレメンツの大天使の招聘という発想は、ユダヤ教の夜に四大天使の守護を願う祈りから取ったもので、その歴史は古い。さらにこのユダヤ教の祈りも、バビロニアの四方の神々の招聘がモデルと言われるので、そこまで遡るならば、数千年の歴史があることになる。
 実際、ユダヤ・キリスト教のパラダイムを好まない魔術師は、このLBRPを自分好みに修正している。非宗教的にして、東の風のエレメンツの王、南の火のエレメンツの王といったようにしている魔術師もいれば、四方の魔王を招聘する黒魔術師や、クトゥルフやアザトースを招聘する混沌魔術師もいる。このような柔軟性もまた、この儀式が今でも世界中の魔術師に愛用される理由だろう。

 この儀式をいつ、どのように行うかについては、魔術師の間でも様々な意見がある。召喚儀式や瞑想の前後に「場を霊的に掃除する」ために使うので充分と考えている魔術師もいれば、毎日朝起きた時に体操のように行っている魔術師もいる。
 クロウリーの「魔術」によると、この儀式(とハーポクラテス神の就任の儀式)を1日に3回ほど実践していたら、魔術師のオーラは「貫通不能」となり、「明白で、弾力があり、放出され、虹色に明るく輝く」ようになるという。また前述のエコールズによると、これと後述の中央の柱を毎日熱心に実践していたら、オーラの生体エネルギーを強化し、精錬させ、後の天使召喚儀式などに不可欠な基礎となる、魔術師の体を作り出す修行だという。
 またマーク スタヴィッシュも、初心者は高度な行に進む前に、最低1年は毎日この2つを行うのを勧めている。
 一方で、日々の実践としてのLBRPの強い反対者として、黄金の夜明け団で活躍していた女魔術師アニー ホーニマンがいる。彼女によると、この行のやりすぎで「生体磁気」が失われるという。そのため、読者が日々行っていて生命エネルギーが失われていると感じた場合には、代わりに次に紹介する招聘の小五芒星の儀式を行うとよい。

小五芒星招聘の儀式(LIRP)

 この招聘の儀式(Lesser Invoking Ritual of the Pentagram)は、LBRPの地の五芒星の最初の線の描き方を単にリバースにしたものである(実際は、昔の黄金の夜明け団では、こちらの方がメインで、LBRPはそのリバース版であったのだが、後にはLBRPの方が有名になってしまった)。すなわち、頂上の点から左下へと描き始める。
 これは、四大エレメンツの大天使のエネルギーを自らに取り込み、強めるといわれ、団では初心者に実践を勧めていたようである。

小六芒星招聘の儀式

 この儀式は、通常は「小五芒星の儀式」の後に行われるが、単独で用いられることもある。五芒星が小宇宙、すなわち人体に対して作用するのに対して、六芒星は大宇宙、すなわち魔術師の周囲の環境に作用すると考えられている。招聘の六芒星は惑星の諸力を呼ぶのに用いて、追放の六芒星は空間の浄化に用いる。

 (1) カバラ十字を行う。それから東に立ち、左手は横に付けて、右手は蓮華の杖か短剣(いずれも無ければ、人差し指と中指を伸ばして使う)を持ち、体の中心線に保持させる。

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 (2) 東に向いたまま、魔術武器で空中に火の六芒星を描く。 この六芒星は、両方とも頂点は上向きの2つの正三角形により構成される。まず上の方の三角形から始めて、右旋に描くようにする。下の三角形の頂点は、上の三角形の中心と重なるように描く。また同時にイメージでも、黄金色の線で描く(五芒星の儀式の直後に行う場合、まだ残っている青白く燃える五芒星の上から重ねるように描く)。
 それから、「アラリタ(אראריתא)」と声を震わせて唱える。この言葉は、「始まりよりあり、不分割であり、その置き換えは一つである方」を意味する文の頭文字によって構成されている。また、この7つのヘブライ文字は、それぞれ7大惑星の1つを表している。それから入場者のサインを行うと共に、短剣などを持つ右手で六芒星の中心を突き、黄金色の六芒星が燃え上がるとイメージする。

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 (3) それから右手を伸ばしたまま、90度回転して南へ向く。また同時に五芒星の儀式の時のように、イメージでも白い光の4分の1の円を描く。南では地の六芒星を空中に描き、「アラリタ」と唱える。この六芒星はよく知られている形で、最初の三角形は上向きで、二番目の三角形は下向きにある。

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 (4) 同様に西に向いて、風の六芒星を空中に描き、「アラリタ」と唱える。この六芒星は地のものに似ているが、両三角形の底辺は重なり合い、ダイヤモンド形となる。

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 (5) 同様に北に向いて、水の六芒星を空中に描き、「アラリタ」と唱える。この六芒星は二番目の三角形が最初の三角形の上に置かれて、両方の頂点が重なり合うようにする。
 (6) 再び東へと向いて(これにより、イメージでの白い光の円は完成する)、最後に再びカバラ十字をする。

 追放の儀式の場合も同等だが、六芒星の描く方向は逆向きとする。

中央の柱

 この中央の柱の行は、もとの黄金の夜明け団にはなく、マサースやクロウリーは実践しておらず、イスラエル リガルディーの「The Art of True Healing」「The Middle Pillar」の著書で世に広く知られるようになった。確かに一部の黄金の夜明け団系の団体ではこの行のプロトタイプともいえるものを実践していたものの、概ねリガルディーの創作であろうと言われている。
 この中央の柱の名前は、カバラの生命の樹にある3本の柱の中央の柱のことで、そこには上から順に、ケテル、ダアト、ティフェレト、イェソド、マルフートの5つのセフィロトがある(ダアトは厳密に言えばセフィロトではないが)。この行では、それらのセフィロトを肉体の各部分に当てはめて、そこに「エネルギーのセンター」を(イメージによって)造っていく行である。
 これはインド ヨーガの身体論、特にチャクラと発想が似ているが、この行はむしろ中国の気功がもとになっている。この行の後半の実践は大周天と酷似しており、また一番下のセフィロト、マルフートの身体上での位置を、ヨーガのような尾てい骨の底のチャクラではなく、足の下に位置するとしているのも、気功の考えと一致している。

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 (1)両足を揃えて、東に向いて垂直に立つ。
 (2)頭の上に輝く白い光の球をイメージして、「エヘイェー(在りし者)」の神名を声を震わせて3回唱える。
 (3)光の球から白い管が降りていき、頭を貫通して喉の位置で止まり、そこで新たな光の球が形成されるとイメージする。これは同じく白色か、薄紫色にする。それと同時に「ヨッド ヘー ヴァヴ ヘー(あるいはエホヴァ)エロヒム(主なる神)」と3回唱える。
 (4)さらに光が降りていき、胸の中心に白色か黄金色の光の球が形成されるとイメージし、「ヨッド ヘー ヴァヴ ヘー エロアー ヴェ=ダアト(力と知識ある神)」と3回唱える。
 (5)さらに光が降りていき、性器の部分に白色か濃い紫色の光の球が形成されるとイメージし、「シャダイ エル ハイ(全能の生ける神)」と3回唱える。
 (6)さらに光が降りていき、足の下に白色か、オリーブグリーン、薄い黄色、ダークブラウン、黒色の4色が混ざった球が形成されるとイメージし、「アドナイ ハ=アレツ(かの地の主)」と3回唱える。

 ここまでで、中央の柱の第一段階は終わる。これらの球は上から順に、霊、風、火、水、地エレメントの球と呼ばれることもある。重要な点として、下のセフィラーのイメージをしている時にも、それまで形成した上の部分も同時に保っていなくてはならない。また、ここでLBRP、カバラ十字をして終わらせるバージョンもある。

 (7)それから頭上のセフィラーへと意識を戻らせて、そこから白い球が分離して、息を吐くとともに、反時計回りに左側へと円形に降りていき、足の下のマルフートへ向かうとイメージする。それから息を吸うとともに、体の右側を円形に登らせていき、頭上へと戻らせる。これを6回繰り返す。
 (8)次には、息を吐くとともに、白い球を体の前面で円形に降ろしていき、足元に到着してからは、息を吸うとともに、背中側で円形に上昇させて戻す。これを6回繰り返す。
 (9)次には、息を吸うとともに、足元から体の中心を通して球を上昇させて、頭上に到達したら、息を吐くとともに、球をバラバラにして、まるで光の噴水のように、体の周囲の全方向に水しぶきを円形に降ろして、それらを足元で合流させて、再び1つの球として、再び上昇させる。これを6回繰り返す。この部分は、「天使の翼を創る」と詩的な表現がされることもある。これら3つに共通して、息を吐く時には球は下へと降ろし、吸う時には上へと昇らせる。
 (10)最後に、LBRPかカバラ十字をして終わらせる。

 この行は体の周囲に放たれているオーラを堅固なものとすると言われている。エコールズによると、普通の人間のオーラは綺麗な卵型ではなく、いびつに歪んでいるが、この行を熱心にやっている魔術師のみは綺麗にできてるという。
 また、クンダリニーを直接扱うヨーガと比べて、心身に与える効果が温和で安全だとも言われる。
 ちなみに、アウルム ソリス(黄金の太陽団)という魔術結社で使われていた方法では、さらに6番目として眉間の第三の目の部分にもセフィラーを形成していた。この行もLBRPと同様に、フレキシビリティーがある。

タットワによるアストラル体投射

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 タットワとはインドの五大エレメンツを表すのに用いられた図形のことで、神智学協会経由で黄金の夜明け団に伝えられた。古典的な(錬金術の)西洋の四大エレメンツのシンボルよりも愛用された理由は、そのシンプルな形と色の違いによってイメージしやすいからだろう。

 タットワはカードの上に描いて、アストラル体投射(アクティブな瞑想の別名と考えてもいい)をする時に、それを凝視する。それから目をつぶると、その残像が瞼の裏に残っているので、それを拡大するようにイメージし、「扉」として中に入ることで、様々なアストラル界(内的ヴィジョン)を探索するのに用いていた。

 また上級の技法として、2つのタットワを組み合わせて(例えば火の風など)、さらに詳しくエレメンツの様々な界を探索するのに用いていた。

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パスワーキング
(タロットカードによるアストラル体投射)

 さらにタロットカードによっても同様にアストラル界(内面世界)の探索の道具として用いていた。
 これらのタロットカードの大アルカナのカードの22枚は、ヘブライ語の22文字とも、生命の樹の各セフィロトを繋ぐ、知恵の32の小路(パス)の中の22の小路と照応するものとされ(残りは10のセフィロトそのものが当てはめられている)、それらのセフィロト間の通路を探索するのに用いていた。この探索行はパスワーキング(小路の作業)と呼ばれ、黄金の夜明け団系魔術師の重要な瞑想実践であった。

 このパスワーキングは集団作業でも行われ、その場合にはリーダーがその小路と関連する「旅の物語」のシナリオを朗読して、残りの参加者がそれについて瞑想していた。これについては、J.H.Brennan著「Astral Doorways」が詳しいので参照のこと。
 また、タットワ、パスワーキングについては、体外離脱の技法の記事の中の「西洋魔術による方法」の章も参照してほしい。

さらなる深淵に

 ここまで述べてきたのは、黄金の夜明け団の膨大な知識・実践のごく一部に過ぎない。
 たとえば、小五芒星の儀式を拡大させた大五芒星の儀式や、7つの惑星のそれぞれを招聘する大六芒星の儀式もあった。
 また黄金の夜明け団の奥義ともいえる、エノク魔術については、別の記事で説明する必要がある。
 さらに生命の樹を昇っていき、そのパロケト(深淵)を超え、聖守護天使との知遇と対話を得た魔術師は、もはや人とはいえない存在に高められると言われるが、それは初心者向けのこの記事の守備範囲を完全に超えているので、ここではその詳細は述べられない。ここから先の研究については、読者の研鑽に期待したい。


 

  • 最終更新:2022-07-14 11:48:02

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